体にいい油の摂取とそのバランスを改善し健康寿命を伸ばす
私たちは生きていく上で、体に必要なもの(栄養)を取り込んでいかなければなりません。
その栄養において、特に重要な成分は、炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル(5大栄養素)です。
ここでは、その5大栄養素の中から脂質について取り上げたいと思います。(更に言葉の定義として、脂質=油=構成要素としての脂肪酸を指して使っています)
脂質、簡単に言えば油ですよね。ところで、油と言えばなんだか「高カロリーで体に悪そう」というイメージが先立ちますが、糖質、たんぱく質、そして脂質と三大栄養素のひとつであるように、人間が生きていく上で欠かせない重要な働きをしています。
私たちの体は約60兆個の細胞(※)でできていると言われます。その細胞をコーティング(細胞の膜を形作る)し、きちんと働けるようにしている主な成分が油(脂肪酸)になります。
油が細胞膜(生体膜)を形作ることで、脳や心臓などの臓器、血管や血液、骨や筋肉にいたるまで、私たちの体のありとあらゆる健康が維持されているのです。
『人体生物学紀要』(Annals of Human Biology)という雑誌の2013年11・12月号に、「人体の細胞数の推定」という論文が載り、それによると、ヒトの細胞数60兆個改め、37兆個に──。(ここではこの数字について論ずるものではありません)
脂質は重要な栄養素であるとともに、食品としての食べ物をおいしくしたり、食べやすくしたりするなどの役割も担っています。
”脂ののった”まぐろのトロや”霜降り”の牛肉のおいしさは誰もが経験的に知るところです。
実は、食品中の脂質が味覚にどのように影響しているか、油脂をなぜおいしいと感じるのか、その全容はまだわかっていないとのことです。(※1)
(※1)油脂のおいしさの科学 ~食品をおいしくする脂肪の役割~ 京都大学 農学研究科 食品生物科学専攻栄養化学 伏木 亨先生
俗においしく食べると栄養になるといわれますが、これは食べ物に対するアリガタさを表現したものと思います。おいしいものを食べることと体にいいものを食べることは違います。
油のことでいいますと、健康を維持し、細胞の働きを活性化させるためには”体にいい油”を意識して取ることです。
※詳しくは、脂質には、「油」と「脂」の2種類があり、「 油」とは、常温(室温)で液体のもの、「脂」とは、常温で固体のものを言います。
"健康に良い”と言ってもバランスが大事
体にいい脂としての代表が「オメガ3」という脂肪酸が豊富な油(オメガ3脂肪酸)になります。
正し、オメガ3は多く取ればいいというものではなく、オメガ6とバランスよく摂取する必要があります。(オメガ3脂肪酸:オメガ6脂肪酸=1:4の割合が理想的とされています)
オメガ6は、オメガ3とは正反対の働きをする脂肪酸で、共に「必須脂肪酸」と呼ばれます。また共に体内で作ることができないので、毎日の食事から摂取しなければなりません。
オメガ3とオメガ6は細胞の膜の成分として互いに作用し合いながら、栄養素や物質を出し入れしたり、ホルモンのような物質を作り出して体内の環境をコントロールしたり、また血小板の凝集を抑えて血液をサラサラにしたりとか、極めて重要な機能を果たしています。
「オメガ3」と「オメガ6」について
オメガ3の効能
健康という側面から、最近では油の良し悪しに対してそれなりの関心と認識を持っている方は多いかと思います。
オメガ3に含まれる代表脂肪酸は、αリノレン酸やDHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)です。主に、亜麻仁油やえごま油、クルミ、天然の青魚(サバ、アジ、イワシ、マグロなど)多く含まれています。
オメガ3には、アレルギー・炎症・血栓の抑制、血管拡張などの作用があり、細胞や脳だけでなく、心臓や血管、目の角膜、女性ホルモン、皮膚などにも良い効果があるとの知見が示されています。まさしく細胞のコーティングとその働きを活性化させてくれるものです。
【オメガ3の効能】
- ・肥満の予防
- ・脳の健康維持(アルツハイマー病などの予防、知能向上)
- ・がんの予防
- ・生殖機能の向上、不妊症の予防
- ・心臓病の予防
- ・骨の健康を維持する
- ・炎症を抑える(アトピー、リウマチ、副鼻腔炎などの予防
- ・精神的疾患の予防(欝、統合失調症などの予防)
- ・うつ病のリスク減(別記ニュース記事参照)
うつ病リスク、魚介で減
n-3系脂肪酸(オメガ3)の摂取量影響
国立がん研究センターなどのチームは27日までに、青魚などの魚介をよく食べる人は、あまり食べない人よりうつ病になる危険性が低いとの調査結果を米医学誌に発表した。
青魚などの魚介には、炎症を抑えるなどさまざまな作用を持つn-3系脂肪酸が含まれることから、うつ病のリスクを下げると考えられるという。
チームは長野県に住む40~59歳の男女1181人を、1990~2015年の間、追跡調査した。食生活のアンケートを行い、魚介の摂取量を算出するとともに、14~15年にうつ病かどうかを診断した。
1181人を魚介の摂取量に応じて4群に分類したところ、各群の摂取量は平均して1日57グラム、84グラム、111グラム、153グラムだった。
うつ病になる確率は、魚介が最も少ない57グラムの群に比べ、111グラムの群では56%減っていた。他の2群も、統計上意味のある差ではなかったものの、最も少ない群より危険性は低かった。
チームはまた、魚介の量から、エイコサペンタエン酸とドコサペンタエン酸などのn-3系脂肪酸の摂取量を計算。これらの成分を適度に取っている群は、うつ病が少ないことも確認された。
チームの松岡豊・国立がん研究センター健康支援研究部部長は「サンマであれば1日1尾弱を食べるといい。不足する場合は加工食品や缶詰、サプリメントで補っても構わない」と話している。 (C)時事通信社(2017/09/27 18:11)
オメガ6の働き
オメガ6を代表する脂肪酸は、リノール酸です。サラダ油のCM等で聞き覚えあるかと思います。
サラダ油以外にごま油、マヨネーズなど、食生活の中の油脂製品の大半に含まれています。カップめんやスナック菓子などの加工食品にも多用されています。
オメガ6は、オメガ3とは反対にアレルギー・炎症の促進、血液を固める働きをします。
オメガ3とオメガ6の接収量比率は1対4が理想(前述)といわれますが、食の欧米化の影響もあって、オメガ3の摂取量は限られ、逆にオメガ6の摂取量は満ち溢れてきています。
これが為に、心身にさまざまな健康上の問題をもたらす可能性が増してきています。
意識してオメガ3を取るようにしつつ、オメガ6を減らしていきましょう。
体に悪い油 トランス脂肪酸には注意
”体に悪い油”の最たるものは「トランス脂肪酸」です。
マーガリンや市販の加工食品、お惣菜、菓子類などに多く含まれている”不自然な物質”で、オメガ3やオメガ6の働きを阻害します。
近年、トランス脂肪酸の危険性が指摘されはじめ、生活習慣病や心臓病、がんやアトピー、認知症や欝などを誘発するとの研究結果が報告されています。(※注)
※注) トランス脂肪酸による健康への悪影響を示す研究の多くは、トランス脂肪酸をとる量が多い欧米人を対象としたものであり、日本人の場合にも同じ影響があるのかどうかは明らかではありません。米国ではトランス脂肪酸を含む加工油脂について、2018年6月以降、食品への添加を原則的に禁止することを決定。
日本では、トランス脂肪酸の平均摂取量がWHO(世界保健機関)の」基準値を下回るとして表示義務は定められておらず、消費者庁が企業の自主的な情報開示を求める指針を出すにとどまっています。
[トランス脂肪酸とは]
「トランス脂肪酸」という名の脂肪酸が一種類だけあるのではなく、トランス型の二重結合を持つたくさんの種類の不飽和脂肪酸をまとめてトランス脂肪酸と呼んでいます。
トランス脂肪酸には、天然に食品中に含まれているものと、油脂を加工・精製する工程でできるものがあります。
天然にできるもの
天然の不飽和脂肪酸はふつうシス型で存在します。しかし、牛や羊などの反芻(はんすう)動物では、胃の中の微生物の働きによって、トランス脂肪酸が作られます。そのため、牛肉や羊肉、牛乳や乳製品の中に天然に微量のトランス脂肪酸が含まれています。
油脂の加工・精製でできるもの
常温で液体の植物油や魚油から半固体又は固体の油脂を製造する加工技術の一つである「水素添加」によってトランス脂肪酸が生成する場合があります。
水素添加によって製造されるマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングや、それらを原材料に使ったパン、ケーキ、ドーナツなどの洋菓子、揚げ物などにトランス脂肪酸が含まれています。
また、植物から油を絞る際には、精製する工程で好ましくない臭いを取り除くために高温で処理を行います。この際に、植物に含まれているシス型の不飽和脂肪酸からトランス脂肪酸ができるため、サラダ油などの精製した植物油にも微量のトランス脂肪酸が含まれています。
ただ、それぞれの食品にどれぐらいの量のトランス脂肪酸が含まれているかは表示されていません。
また、外食の場合、トランス脂肪酸が入っているかどうかはほぼ分かりません。
「油」を見直し、健康寿命を促進
ところで、2013年12月、「和食:日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。
「和食」の4つの特徴のひとつに「健康的な食生活を支える栄養バランス」があげられています。
「一汁三菜を基本とする日本の食事スタイルは理想的な栄養バランスと言われています。また、『うま味』を上手に使うことによって動物性油脂の少ない食生活を実現しており、日本人の長寿や肥満防止に役立っています。」
(農林水産省 http://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/ich/)
何となくですが、「日本人」と「日本食」が繋がっていないような気がします。日本は長寿国でもあります。健康寿命を伸ばすためにも”油脂”も今一度見直すべきかと思います。
毎日の食事で、”体に悪い油”を排除しながら、”体にいい油”を取り入れていくことは、細胞の質を上げ、ひいては全身の健康につながります。
より健康な生活を送ることは、そのまま健康寿命を伸ばすことです。高齢化によって懸念される病気や介護の問題等も含め、食は直結するところ大かと思います。
より健康な生活を送るためにも、体に取り入れる「油」を見直しましょう。
代表的な脂肪酸と食品
脂質はいくつかの脂肪酸が組み合わさってできていますが、その脂肪酸にも様々な種類があります。
常温で固体(脂)の「飽和脂肪酸」、常温で液体(油)の「不飽和脂肪酸」がありあります。
飽和脂肪酸は牛肉や豚肉など、主に動物性の脂肪に多く含まれています。この脂肪酸は必須脂肪酸ではなく人間の体内で合成できますので、取り過ぎないようにすることです。あえて言えば、必ずしも食事で摂取する必要はありません。
※リノール酸やα-リノレン酸などは、生命の維持に不可欠であるにも関わらず、体内で作ることができないため食事からとる必要があることから、「必須脂肪酸」と呼ばれています。
不飽和脂肪酸は、さらに一価不飽和脂肪酸と、多価不飽和脂肪酸に分かれます。前者は「オメガ9」とも呼ばれ、代表となる脂肪酸はオレイン酸です。
オレイン酸は悪玉コレステロールを下げたり、肝臓やすい臓、腸などの機能を高める働きがあります。オリーブオイルの主要成分になります。オメガ9も体内で合成できるので、あえて食事から摂取しなくてもいいものです。
食品と主な脂肪酸の例
【飽和脂肪酸】(常温で固体の脂)
パルチミン酸、ステアリン酸など
バター、ラード、ヘット(牛脂)、ココナッツ油、パーム油などに多い
※食べ過ぎないようにすること
【不飽和脂肪酸】(常温で液体の油)
一価不飽和脂肪酸
オメガ9
オリーブオイル、キャノラー油(菜種油の一種)などに多い
※良質なものを普段使いに
多価不飽和脂肪酸
オメガ3
αリノレン酸、DHA、EPAなど
亜麻仁油、えごま油、麻の実油、グリーンナッツオイル、天然の青魚の油などに多い
※積極的に食べましょう
オメガ6
リノール酸、アラキド酸など
紅花油、コーン油、大豆油、ごま油、菜種油などに多い(リノール酸)
アラキド酸は、肉、卵、魚、肝油などに含まれます
※摂取量を減らしましょう
【トランス脂肪酸】
一般的なマーガリン、ショートニング、加工油脂、これらの油脂製品を用いた食品などに多い。
※徹底的に避ける